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最高裁判所第三小法廷 平成10年(オ)1579号 判決

島根県出雲市今市町一四三三番地

上告人

学校法人星野学園

右代表者理事

星野實

東京都品川区西五反田八丁目八番二〇号

被上告人

株式会社 ダーバン

右代表者代表取締役

水野俊朗

右当事者間の広島高等裁判所松江支部平成八年(ネ)第一六号特許権に基づく不当利得返還請求事件について、同裁判所が平成一〇年四月二四日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

物の発明における特許請求の範囲に当該物の形状を特定するための作図法が記載されている場合には、右作図法により得られる形状と同一の形状を具備することが特許発明の技術的範囲に属するための要件となるのであり、右作図法に基づいて製造されていることが要件となるものではない。これを本件についてみると、被上告人の製造販売する製品が右作図法により得られる形状と同一の形状を有することにつき主張立証がないから、被上告人が右製品を製造販売する行為が上告人の本件特許権を侵害しないとする原審の判断は、結論において是認することができる。所論は違憲をも主張するが、その実質は単なる法令違背の主張にすぎない。論旨はいずれも採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣)

(平成一〇年(オ)第一五七九号 上告人 学校法人星野学園)

上告人の上告理由

第一、原審判決には民事訴訟法第三一二条第二項第六号記載の理由不備、理由齟齬の違法がある。その詳細は以下に述べるとおりである。

一、従来技術と従来の衿型、「衿腰に切り替えのある衿」について

本件特許発明は折れ衿に係わる。折れ衿とは、継ぎ目のない一枚の布で作られた衿が、着用時の折り目線(衿返り線)を境界線として衿腰部位と衿巾部位に別れる衿である。該衿折り返り線は、前身ラペル部分の折返り線と、後中心での折り目線の接線部分とを滑らかな曲線で結んで構成され、型紙では、該ラペル折り返り線と、衿折り返り線の後中心での接線との交点を「Pk点(カーブポイント)」といい、前端からPk点を経て後中心に至る折れ線の、Pk点での折れ角を「衿のねかせ角」という。

衿の型紙は、ねかせ角さえ定まれば、衿返り折れ線が定まり、これを滑らかな曲線で結んで、衿折り返り(曲)線が得られ、これに平行に衿腰寸の間隔で衿付け線、衿巾寸の間隔で衿外回り線を描くことで衿の元型が得られ、この衿外回り線にキザミ衿ヘチマ衿等のデザインを施すことで折れ衿の型紙が得られる。従って、衿の外観を与える衿外回りも輪郭と衿腰衿巾の各寸法が定まっているときは、衿の形状を決定するのは「衿のねかせ角」のみである。

背広衿の場合、従来の折れ衿のねかせ角ならば12度±2度であるが、本件特許発明の衿巾のねかせ角では30度以上となる。

ねかせ角12度の従来からある折れ衿の型紙は、衿付け線と衿外回り線に沿って布地を伸ばし、折り返り線を縮めることによって、人体頚部によくフィットさせ身頃に縫合されているが、ねかせ角30度以上の本件特許発明の衿は、衿腰、衿幅のそれぞれが人体頚部にフィットした型紙であるため、熟練した職人でなくても正確に縫合するだけで折れ衿の製品を得ることが出来る。

このように衿の外観が同一で、区別が付けにくいにもかかわらず縫製工程が全く異なる別種の衿となる原因はねかせ角の相違にある。本件特許発明は、従来の衿を経験に頼らず科学的に得る方法の発明ではなく、従来なかった衿型を創作する物の発明である。新規な発明としての衿腰に切替えのある衿と従来からある衿腰に切替えのある衿とを見分けるための事項が特許法第36条に従って記載される「特許請求の範囲」である。

二、本件特許発明の衿型、「請求の範囲」と目的「技術的範囲」

なお、原審判決で本件特許請求の範囲の要約を「本件作図法により得られる衿」としているが、簡略が過ぎ論点が見えない。そこで、本件作図法は

「ねかせ角を“衿腰半径で弧長tg+tYcmに取る”こと」に特徴があるから、「ねかせ角を“衿腰半径で弧長tg+tYcmに取る”作図により得られる衿」を請求の範囲の要約とする。

三、「範囲と判決」その1

1、昭和49年(ワ)第38号特許権侵害行為差止等請求事件判決(昭和55年4月30日)は、本件「不当利得返還請求事件原審訴訟」に、被告から提出された本件特許発明の技術的範囲の認定を含む裁判の判決である。本件特許発明を公知発明なりとした事実誤認による判決である。

(以下、前回判決、前回の裁判という)

前回判決において理由の「二 本件特許発明の要部及が作用効果」は三節に分かれている、

第一節で請求の範囲の記載にa、b、c、、、と文節名をつけ

第二節前段「・・弧度の原理を利用することにより、、、何でもズバリ中間技術を労せず作図して求める・・、、上記の目的を果たすために衿腰に切り替えのある衿を提供」、

第二節後段「もっとも成立に争いのない乙第二ないし七号証・・・によれば、『衿腰に切り替えのある衿』そのものは、本件特許出願(昭和44年1月15日)前日本国内ですでに製造販売され、その作図方法も何例か雑誌等に公表されており、衿腰に切替えを設ける必要性又は目的をも含めて公知のことに属していた」と認め、

「3、以上の事実を総合すると」以下で、「本件特許発明の特徴は、「弧度の原理」を利用して衿腰に切り替えのある衿を作図することにあり。・・・f、g、h、及びmの工程が本件特許発明の要部(中心的部分)をなす」としている。

「本件特許発明は、一応「物」の発明に属するけれども、右にみたところからも明らかなように、弧度の原理を利用した特定の作図法によって限定された衿腰に切り替えのある衿と理解すべきであり、その実質はむしろ「物を生産する方法」の発明と同視しうるものというべきである。」としている。

2、被告の提出したこの判決には次のごとき重大な事実誤認がある。

(一)特許発明においては、請求の範囲に記載される事項(要件)を備えたものが発明(特許法第36条)であるから、該発明が公知か否かは、「請求の範囲」に記載される要件を備えた発明を対象として論じられなければならない。

判決は、対象となる発明を確認しないで公知なりと判断し、認定した後で「請求の範囲」の記載事項から発明の要件を定めるという本末転倒した判断をしている。

(二)しかも該判決は、何が対象となる発明かを未知のまま、この発明と同一名称のもの、及び、必要性と目的が公知であることを理由として、発明も公知であると認定している。このように発明の目的及び必要性が公知であることから、即、発明(必要とする目的物)も公知と言えるのは、発明が容易な場合に成り立つことであり、本発明の特許性を認めるならば、発明が容易な場合(進歩性がない)とする前提は成り立たない。

請求の範囲に記載された物の公知が示されないかぎり、公知との認定は出来ない。判決は、一方では特許性(新規性、進歩性、有用性)を認められた発明と認定しながら、他方で、進歩性を否定した前提で成り立つ公知の認定をしているところが重大な事実の誤認である。

(三)本件特許発明は算出した“ねかせ角”でズバリ目的の衿型を得ているのに、判決には“衿腰の切り替え”でズバリ目的の衿型が得られるとの判断で判決している。公知の判断をするに当たっても、請求の範囲に記載されたねかせ角には眼を向けず、切り替えの存在にだけ着目して公知と認定している。これは重大な事実誤認である。

本末転倒した構成要件の認定も、発明の特定もなく公知判断をしているのも、全て、この認識の錯誤に起因している。切り替えが要件であるとの認識で判決の流れを見ると、正当な順序で論じられていることが解る。しかし、最初に請求の範囲から発明を特定していれば、このような結論はでなかった。

(四)本件特許発明の効果も、算出されたねかせ角の定める衿型にあり、単に切り替えることだけでは得られない。本末転倒した判断とはいえ、f、g、h、の工程が中心的部分と述べているところは、文節名に対応する請求の範囲の記載は、fは衿腰半径の弧線、gは弧長をtg+tYcmにとる、hはねかせ角の方向、であるから、請求の範囲の要約「ねかせ角を“衿腰半径で弧長tg+tYcmに取る”作図により得られる衿」と一致している。

従って、もし、ねかせ角の弧長がtg+tYcmとなる衿が公知であれば、本件特許発明が公知ということになるが、被控訴人の提出した証拠にはこのような衿はない。

前回の裁判において、被告は、該要件の一致を示せない、単に衿腰に切り替えがあるだけの衿(甲第23号証の1)及び、各種作図法を公知例と偽って提出し、しかも、本件特許発明が名称物「衿腰に切り替えのある衿」そのものであるかのごとき証言や、論述を繰り返すことにより、裁判所の判断を誤らせたことは当時の被告準備書面、及び、証拠等をみれば明らかである。

即ち、被告の態度は、本件特許発明が公知であるというときには、切り替えがあることだけで公知(甲第23号証の1)と言い、被告の製品が属す判断のときは請求の範囲の記載通り(甲第37号証)の厳密な解釈を要求するというように、発明の解釈を二様に使い分けているのである。

四、「範囲と判決」その2

昭和52年「審判第15016号無効審判請求事件」昭和57年5月12日審決

昭和57年「行ケ第155号審決取消事件」平成2年4月27日判決

前記の事件は、本件特許発明に対し原告全日本紳士服工業組合連合会から出されたものである。前回裁判に被控訴人から公知例として提出された雑誌等に公表された各種「衿腰に切替えのある衿」の作図方法等の存在により、本件特許発明は容易な発明にあたると主張したが、判決で本件特許発明は有効であることが確定している。

五、「範囲と判決」その3 (本件第一審)

平成10年ネ第16号「特許権に基づく不当利得返還請求事件」

原告は、被告ダーバン社のイ号製品は本件特許発明と同一であるとして、無効審判審決を提出し、被告は、イ号製品はダーバン社のロ号作図で製造したものとして、前回裁判の判決を提出した。

判決は、無効審判の結果にもかかわらず、公知であるからと前回裁判の判決に倣った。

六、「範囲と判決」その4 (本件控訴審(原審))

本件控訴審においては、発明が公知であることを前提とするぜんかいの判決と異なり、今回は発明が公知ではないことが明示された裁判である。発明が公知か否かを定めるのは、特許庁審判部、東京高等裁判所の専決事項である。

しかも、前回裁判の判決が、本件特許発明と同一名称物及び作図法が公知であることをもって本件特許発明を公知と認定するという、錯誤に等しい判断による判決であることが指摘されているのである。

錯誤の原因が特殊な分野の技術内容に関することであり、被控訴人側の巧妙な陳述によるものとして、致し方無いとしても、今回の裁判においては、本件特許発明と従来技術の解説、前回裁判判決で公知判断法の誤っているところを述べ、本件特許発明が公知でないことを示す審決、並びに、東京高等裁判所の判決を提出している。

本件控訴審で、控訴人が示した内容の要点は次のとおりである。

1、被告ダーバン社のイ号製品は本件特許発明と同一である

2、被告ダーバン社のロ号作図ではイ号製品を製造出来ない

3、前回の判決は発明と同一名称物が公知だから発明も公知としており、その公知の判断法が根本的に誤っている

4、前回裁判と条件が異なるためその判例を適用すべきでない

本件控訴審判決の要点は次のとおりであった。

1、公知認定による方法要件なし

2、詳細な説明の解釈から方法を構成要件と見なし、原告の主張は拡張とされた

七、理由不備、理由の齟齬

今回の広島高裁松江支部の裁判においては、拡張した請求(請求の範囲の記載通りの範囲ではない)としているのは、重大な誤りである。

1、判決の「第三 当裁判所の判断 一(争点1)本件作図法によることが、本件特許権の構成要件かについて」の3は五つの部分に分かれており、第二段以降の段に特許法上の誤りや重大な事実の誤認がある。

第一段の「そこで判断するに」以下で、「発明者は、衿巾のねかせ角が一定の算出角度になる衿腰に切り替えのある衿のすべてについて特許権をとろうと考えていたことが認められる。」

本件特許請求の範囲を要約すれば 「(折衿の作図で衿のねかせ角“を衿腰半径で弧長tg+tYcmに取る”こと)により得られる 衿腰に切替えのある衿(以下、衿)」と記載されている。従って、該記載に基ずく技術的範囲は「ねかせ角が衿腰半径で弧長がtg+tYcmであるか否か、を見れば足りる」ものである。判決の判断のいう算出角度とは弧度=((tg+tY)/衿腰寸)のことである。

2、第二段「しかしながら、特許権というものは、発明者の頭の中にあること全てについて与えられるものではなく、特許請求の範囲として記載された技術的思想に対して与えられるものである。特許権の対象は、発明者が何を考えていたかを考察して決定されるのではなく、特許請求の範囲の記載の解釈によって決定されるものである。」としている。

「特許権というものは、・・・特許請求の範囲として記載された技術的思想に対して与えられる」としてあるが、「特許というものは、・・・」というべきところである。また、「特許請求の範囲として記載された“技術的思想”に対して与えられる」としているが、“思想”が特許になるのではなく、”技術的思想の創作”が特許されるのであり、その創作が物であれば物の発明、方法であれば方法の発明、物を生産する方法であれば物を生産する方法の発明として特許されることとなる。判決の判断は誤りである。

衿の作図法を「物を生産する方法の発明」として出願することも可能であろうが、本件の場合「衿腰に切り替えのある衿」という「物の発明」として特許を得ている。その請求の範囲には 本件作図法により“得られる衿”と記載されている。

もし、本件作図法により“得られた衿”と記載すれば、本件作図法により得られたか否かをもって技術的範囲を定めることとなり、実質上、物を生産する方法の発明に等しいのであるが、通常、物としての特許を請求しながら物としての特徴が表れない事項を記載すれば「発明の構成に欠くことの出来ない事項のみ記載すること」を求めている36条5項違反として拒絶される。

従って、本件作図法により“得られる衿”と記載されていれば、該作図で形成し得る衿であることが要件となり、経歴として本件作図法を経由したか否かは要件とならない記載である。即ち、発明者が得ようと考えた技術的範囲が、正確に請求の範囲の記載となって示されている。

3、「特許権の対象は、・・・特許請求の範囲の記載の解釈によって決定されるもの」とあるが、判決の言い方では、発明者が得ようと考えた技術的範囲である特許請求の範囲の記載は、解釈さえ付けばどのように決定しても良いと言われているように聞こえる。勝手に解釈して良いのではなく、70条に定められるごとく「特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基ずいて定めなけねばならない」とされている。

第三段の「そこで、本件特許権の対象を特定する本件特許請求の範囲の記載をみるに、同記載においては、まず、本件作図法の説明がなされ、本件作図法『により得られる衿腰に切り替えのある衿』として、本件作図法によるべきことが明記されていることは当事者間に争いがない。」としているが、とんでもない事実誤認である。

4、「作図法の説明がなされ」特許請求の範囲には、衿腰に切り替えのある衿について、衿の背骨に相当する衿返り曲線の形状を定めるね かせ角の位置と方向を、位置関係で示されており、位置関係を示すため最も理解し易いのが作図するがごとき順序で指定することであるため、記載となっているのであるから、「作図手順を借りてねかせ角の位置と大きさが定められ」と表現すべきである。

住所の表示でも、北緯何度東経何度と言ったり、何町何丁目何番地と言ったり、出雲市駅の北口に出て、駅から北に直進、4つ目の信号で国道9号線と交わるから、右折して松江方向に向い、3つ目の信号の左側が郵便局です。というように、道順(方法)を借りて位置を指定することは日常よくあることである。

方法と見なされた作図手順は、公知公用の位置の指定方法である 方法が記載されているから、直ちに方法を要件としていると断ずるのは早計である。

5、「・・・として、本件作図法によるべきことが明記され・・」というこの言い回しは、登録されている特許について、事実の変更である。

“本件作図法によるべきこと”という作図法を義務(要件)とする範囲ではなく

“本件作図法で得られるもの”として作図法で可能(要件)である範囲となっている。

敢えて、べきことを用いて表現するならば、請求の範囲には、本件作図法で得られる衿と記載されているのだから、本件作図で得られるべきこと理解すべきである。それを本件作図法によるべきことと短絡して表現するということは、記載事実の変更である。

つまり、“べきこと”は得られるに結合させ理解しなければ文意に反する。判決の解釈は“尻取り”のごとく、言い換えにより、本件作図が要件となるように文意を変えた表現をしている。

6、「明記されていることは当事者間に争いがない」

上記2、の言い換えによる記載事実の変更された表現に争いがないとしているのは、重大な事実誤認である。

「本件作図法によるべきこと」と明記されていれば方法が要件となるのである。問題は、そのように記載されていないのに、記載されているかのごとく被告が主張している点であり、争点となっている理由なのである。

判決は、六頁七行目「二、争点」に続く八行目で「1 本件作図法によることが、本件特許権の構成要件か」として、争点であることを明記しながら、記載事実を変更した表現で争いがないとするとは、とんでもないことである。

第四段の「本件特許権の『発明の詳細な説明』にも、その冒頭で、

『本発明は弧度の性質を利用した衿腰に切り替えのある衿に関するもので、従来の感覚的な工程にたよるしか方法のなかった衿の構成法を作図によって完成させようとするものである。』と述べたうえで、作図方法について詳細な説明がなされている。(甲二)」とし、第五段で「とすれば、本件作図法によることは、『衿腰に切り替えのある衿』を限定する本件特許権の構成要件であると解する他はない。」と述べている。

7、特許法第36条第3項によれば、「第二項第三号の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。」とされ、また、同第4項には、「第二項第四号の特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載しなければならない。」とされており、「詳細な説明」で発明の構成として記載される事項は、技術者に理解するために必要な事項を網羅的に記載されることを禁じられているわけではない。説明のために網羅的に記載された構成の中から、発明の構成に欠くことのできない事項のみを選定して記載されているのが「請求の範囲」である。

従って、第70条「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならない。」とされているのであり、判決のごとく「詳細な説明」に記載されているから構成要件と断ずるのは見当違いである。

審査手続き関する措置(昭和43年1月15日「日本発明新聞」掲載)

{「請求の範囲」と「詳細な説明」との関連よりみた明細書の不備について}によれば、「請求の範囲」には方法または物のいずれか一方の発明に関する記載があり、「詳細な説明」には方法と物との両方に関する記載があっても、それぞれ方法または物の発明として取り扱う。

8、無効審判の審決では、前回裁判に被控訴人が示した公知技術にたいしても、本件特許発明は有効であることが示されている また、前回の判決が、事実誤認から公知判断を誤っていることが明らかな以上、判決に瑕疵のあることが示されているのであり、また、当裁判には、被控訴人からも本件特許発明の特許性(新規性)を否定する新たな公知例も示されていないのであるから、公知技術の存在を前提とする前回判決は、前提条件が異なるから判例とはならない。

今回の裁判において本件特許発明が公知であるという判断が姿を消していることは、原告の主張を理解いただけた点として安堵しているところである。

しかし、判決は、本件特許発明の請求の範囲に「得られる衿」と記載されていると認めているにもかかわらず、四、「事実の誤認」に述べるごとく、請求の範囲を意図的に「得られた衿」と変更した解釈をしたり、他方で詳細な説明や、技術思想から方法も要件であるとしたりしている、即ち、前回判決の結論部分「方法も発明の構成要件とみなした技術的範囲の解釈」を適用するためとしか考えようがない解釈をしている。

70条に従って解釈された原告の本件特許発明の技術的範囲が、拡張した請求に当たるとの判決は、特許の基本的権利、純粋の権利を無視するものとなっている。請求の範囲に記載されたものか特許の技術的範囲であり、方法要件がなければ原告の主張は拡張ではない。

六、憲法第三二条の裁判を受ける権利の保障と実質的に没却するものである。

以上で判る通り、事件1で公知判断方法の誤ったために得られた結論、本件特許発明が「方法も要件とする発明とみなすべきである」という結論部分はそのまま踏襲されているため、前記に示すごとき、記載事実の変更解釈、70条違反してでもこの結論に従う義務が負わされ、原告に不当な不利益を与えている。

本件特許発明によって化繊が折れ衿に利用できる道が拓かれたたという歴史的実績を有する発明なのである。正当な理由もなく誤認により公知と認定されたのである。しかも、それによって今回、またもや、発明無効に等しい判決を下されている。一方では、特許として公開し権利を登録させながら、他方では、誤っていることが明らかとなってもなお判例にたより、理由の無いまま、方法要件のある物の発明としての認定を残してその正当な権利の行使が出来ないまま放置されており、特許権そのものの効力が失われたにひとしい状態となっている。法のもとに平等でない。

前回判決を機械的適用では、被告に製造方法の開示義務がないので、被告はいくら嘘を言っても通る。控訴人の知り得ることではない。即ち、幾ら裁判を繰り返しても方法を示せない限り、答えは一つと言われているに等しい、裁判を受ける権利を喪失させられたに等しく憲法第三二条に反する。

イ号製品が「請求の範囲記載の“作図で得られる”衿」であるという事実が示されているにもかかわらず、「請求の範囲記載の“作図で得られた”衿」であることが示せないことで特許侵害があっても侵害とならない。嘘の尽き放題である。裁判所は初期の判断を誤ったため自縄自縛の判決をしたことになるのである。

製造方法について、虚偽のあることが明らかな以上、この判決は正義に反する。

七、本件は次に述べるとおり適切な解決がなされるべきである。

本件は1の再審ではないので、公知判断の誤りの訂正はできないであろうが、前回判決と条件がことなるから、結論を採用すべきでないとするか、瑕疵があっても前回判決を無視出来ないのであれば、前回判決は「方法も要件と見なすべき」に続けて「本件特許発明は物を生産する方法の発明と同視し得るもの」としているのであるから、物を生産する方法の発明に係わる特許法の各条項を適用すべきである。特に104条を適用することにより失わせた権利を回復すべきである。

特許法第百四条 物を生産する方法の発明について特許されている場合において、その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、その物と同一の物は、その方法により生産したものと推定する。

イ号作図でしか得られない製品を所持している被告がロ号作図であると主張するだけでそれが偽りである証拠が示されていても見逃される。このような、ことの当否よりも判例にたよる判決は、司法に頼るものにとっては耐え難いものである。

第二、以上述べた理由により、原審判決を破棄し、さらに相当な判決が下されなければ著しく正義に反するといわなければならない。

以上

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